1.控除対象外消費税とは?
控除対象外消費税は、税抜経理方式を採用している場合に生じる可能性があります。 消費税額の計算上、次のいずれかに該当する場合には、仕入時に支払った消費税の全額を控除することができません。
課税売上高が5億円を超える場合 課税売上割合が95%未満である場合 、仕入れ時に支払った消費税のうち、控除することができない消費税額が発生することになります。
この「控除できない消費税額」のことを控除対象外消費税といいます。
課税売上割合とは? ここでいったん、課税売上割合について簡単に解説します。 課税売上割合は控除対象外消費税を理解するうえで欠かせない知識です。 課税売上割合は次の算式によって計算されます。
課税売上 割合 = 課税売上高の合計額(免税売上含む) 課税売上高の合計額(免税売上含む)+非課税売上高の合計額
上記の算式によって算出された割合のことを、課税売上割合といいます。 課税売上割合が95%以上で、かつ、その課税期間の課税売上高が5億円以下の場合は、仕入れ時に支払った消費税額のすべてを控除することができます。
しかし、課税売上割合が95%未満の場合、仕入れ時に支払った消費税額に課税売上割合を乗じた金額が控除対象となるのです。
具体例を示しておきます。
例:課税売上高5,000万円、非課税売上高3,000万円、仕入れ時に支払った消費税額が500万円のケース
Ⅰ.課税売上割合=5,000万円/(5,000万円+3,000万円)=62.5%
Ⅱ.控除できる消費税額=500万円×62.5%=3,125,000円 上記の例の場合、控除できる消費税額は500万円のうち3,125,000円ということになります。
例えば「課税売上割合が60%」、「当期に1,000万円の機械を購入」したケースで考えてみましょう。 まず、1,000万円の機械の購入時に「1,000万円×10%=100万円」の消費税額を支払っています。 本来であれば機械購入時に支払った100万円の消費税は、消費税額の計算上、売上の消費税から控除することができます。 しかし、ここで問題となるのが、課税売上割合が60%であるということです。つまり、支払った消費税100万円は次のように区別されます。 100万円×60%=60万円(控除できる消費税額) 100万円-60万円=40万円(控除対象外消費税額) 支払った消費税額100万円のうち60%は控除できるのですが、残額の40万円は控除することができませんよね。 このように、課税売上割合が95%未満となった場合に、その割合に応じて控除対象外消費税が生じてしまうのです。
Ⅲ.今度は、控除対象外消費税の処理方法を解説します。 控除対象外消費税が生じた場合、課税売上割合と控除対象外消費税の金額によって処理方法が変わります。 詳しくは下の表をご覧下さい。 ※なお、法人の場合を前提としていますので、個人事業主の場合は若干異なります。 課税売上 割合 処理方法 95%以上 控除対象外消費税は生じない 80%以上 控除対象外消費税の全額が損金計上可能 80%未満 経費について生じた控除対象外消費税 全額が損金計上可能 固定資産について生じた 控除対象外消費税 控除対象外消費税が 20万円未満 全額が損金計上可能 控除対象外消費税が 20万円以上 繰延消費税額等 として処理 課税売上割合が80%以上だったり、控除対象外消費税が20万円未満の場合は特別な処理は生じません。
まとめると、下記3つの条件をすべて満たす場合に特別な処理が必要となります。
①課税売上割合が80%未満
②固定資産を購入している
③その固定資産について生じた控除対象外消費税が20万円以上 この特別な処理が必要となるケースについては、次章でより詳しく解説していきますが、全体像を整理するために、ここで控除対象外消費税の処理方法のフローチャートを示しておきます。
Ⅳ.資産について生じた控除対象外消費税の処理方法 機械や社用車、パソコンなど、購入した固定資産について控除対象外消費税が生じた場合、次の3つの処理方法が認められています。
①資産の取得価格に含め、減価償却費として各期にわたって経費計上する
②その事業年度に一括して経費計上する(後述の3つの要件を満たしている場合に限る)
③繰延消費税額等として資産計上し、均等償却する 税込経理方式の場合、元々消費税額を資産の取得価格に含めているため、特別な処理は生じません。 (税抜経理方式の場合でも、資産の取得価額に含めることを選択しているときは、同様に、特別な処理は生じません。) 問題はその事業年度で一括経費計上できるのか、「繰延消費税額等」に計上して償却処理をしなければならないのか、という点です。 一括で経費計上するためには、次の3つの要件を満たしている必要があります。
a.課税売上割合が80%以上であること
b.棚卸資産について生じた控除対象外消費税等であること
c.控除対象外消費税が20万円未満であること
上記3つの要件を満たしていれば処理方法に特に難しいことはありません。 単に「租税公課」、「雑損失」などの科目で経費計上できます。 一方、繰延消費税額等に計上し、各期で償却処理をしなければならないのは次のケースです。
a.課税売上割合が80%未満
b.固定資産を購入している
c.その固定資産について生じた控除対象外消費税が20万円以上 この場合、生じた控除対象外消費税を「繰延消費税額等」として資産計上しなければなりません。
繰延消費税額等は、次の計算方法によって経費に計上します。
経費計上額=繰延消費税額等/60×その事業年度の月数 ただし、償却初年度においては、上記の計算式で算出された金額の2分の1の金額を必要経費に計上することとなります。 繰延消費税額等に計上する場合の計算例 先ほどと同様、課税売上割合が60%、1,000万円の機械を購入したケースで計算例を示しておきます。 この場合40万円の控除対象外消費税が生じたため、繰延消費税額等に40万円を計上することとなります。
a.初年度:40万円/60×12×50%=80,000円×50%=40,000円を経費計上
b.2年目以降:40万円/60×12=80,000円を経費計上
c.6年目:残額の40,000円を経費計上 繰り返しになりますが、繰延消費税額等の償却初年度は算出金額の2分の1の金額しか計上できない点に注意しましょう。 ここは非常に忘れやすいポイントです。
Ⅴ.資産以外について生じた控除対象外消費税の処理方法 は、固定資産について生じた控除対象外消費税の処理方法を解説してきました。 ここでは「固定資産以外」の通常の経費について生じた控除対象外消費税の処理方法を解説します。 固定資産の処理方法は複雑でしたが、こちらは簡単です。 固定資産以外の経費について生じた控除対象外消費税は、租税公課や雑損失などの勘定科目で処理し、その全額を一括して経費に計上することになります。
Ⅶ.交際費について生じた控除対象外消費税の処理方法 交際費について控除対象外消費税が生じた場合、処理方法に注意が必要です。 ここで問題となるのは、法人税上の「800万円の損金算入限度額」です。 通常、税抜経理方式を採用している場合には、交際費の総額を税抜価格で計上することになります。 しかし、交際費について控除対象外消費税が生じた場合には、税抜きの交際費の合計額に、交際費について生じた控除対象外消費税の額を加算しなければなりません。 控除対象外消費税の処理は意識していないと忘れてしまう危険性が高いです。 特に交際費の合計額が800万円ギリギリの場合は、控除対象外消費税の額を足すと800万円の上限を超えてしまう可能性があります。 十分注意して慎重な処理を心がけましょう。
まとめ
この記事では控除対象外消費税の概要と、その処理方法について説明してきました。 控除対象外消費税は、課税売上割合が95%未満の場合、または課税売上高が5億円を超える場合に生じます。 特に課税売上割合が80%未満で、固定資産を購入している場合には繰延消費税額等に計上して償却処理が必要となる場合がありますので、注意が必要です。 また、最後に解説した交際費の損金算入限度額の処理は忘れやすいポイントです。 特に普段課税売上割合が95%以上である事業者が、たまたま課税売上割合が低くなってしまった場合、処理に慣れていないことでスルーしてしまう危険性が高いです。 土地の売却など、多額の非課税売上が生じた場合にはこのような特殊な処理が生じる可能性があることを頭に入れてる必要があります。